なぜ滝野川高等学院では、1回しか「体験」ができないのか。

query_builder 2024/11/28
なぜ滝野川高等学院では、1回しか「体験」ができないのか。

なぜ滝野川高等学院では、1回しか「体験」ができないのか。


筆者・滝野川高等学院 代表 豊田毅


はじめに


 一般的にフリースクールでは入校相談のお問い合わせがあったとき、電話やメール、お問い合わせフォームなどで最低限の情報をいただいた後、日程調整をして、相談、見学、体験まで3段階の手順を経て、入校という流れになるかと思います。そこは基本的には滝野川高等学院でも同じなのですが、滝野川高等学院では「体験は1回まで」というルールを設けています。今回はその理由について3つの観点から述べていきたいと思います。


1.所属するフリースクール生の最大利益のため


 2024年現在、滝野川高等学院には、フリースクール生(小中学生)が50名程度、サポート校生(高校生)が15名程度所属しています。週1登校の生徒もいれば、週5登校の生徒もいますから、1日平均20~30名の生徒がスクールに訪れることになります。その生徒に対して、スタッフは常勤のスタッフが5名、週1~3日勤務のスタッフが5名で生徒たちに対応していきます。生徒4、5名に対して、ボランティアではない教員免許を持った専任のスタッフが1人は常についているという教育環境は、手前味噌ながら全国的に見ても屈指であると自負しています。


 そうした中、「体験の生徒を受け入れる」という行為は、スタッフの少なくとも1名を「在籍するフリースクール生」から引き離してしまう行為であるということができます。とはいえ体験せずに入校するというのは、さすがに判断材料がなく難しいと思いますので、滝野川高等学院でも、入校前の体験を推奨しているわけです。ただし、その回数は1回に限定させていただき、現在在籍している生徒にスタッフがしっかりついていられる時間を少しでも長くするという努力をおこなっています。「所属するフリースクール生の最大利益のため」に、信頼できるスタッフの人数を揃えること、そのスタッフを適切な場所に配置すること。それがフリースクールとしての責任だと考え、体験を1回としているわけです。

 ちなみに体験は1時間体験から、1日体験(5時間)までをお選びいただくことができ、初回の面談日に体験も同時にすることもできますし、面談の際に後日、体験を入れることもできます。私たちは「一期一会」を大切にしていますから、たとえ1回の体験であっても、フリースクール生として誠心誠意、しっかり見させていただいています。そのうえで滝野川高等学院を選んでいただけるならばこの上ない光栄です。


2.子どもによるフリースクールの「吟味」は推奨できない


 昨今、フリースクールの数も増えてきましたから、いくつかのフリースクールを見学、体験して、子どもと話し合って、そのなかで一番良かったフリースクールを選ぶという考えも一般的になってきました。しかし私としては、このやり方にはデメリットも多いと考えています。


 たとえば、子どもが大学を選ぶとき、学部学科選び、キャンパスの雰囲気、教授陣などをバイタリティが高い状態で選んでいくと思います。選びたくて選んでいる状態です。しかし、不登校の状態の子どもは一時的にバイタリティが大きく低下していて、選ぶに選べない状態であることが多いのではないでしょうか。しかも大学のように行き先が大学と決まっているのとはわけが違います。まず不登校者には、「再登校」という選択肢があります。しかもそれは現状では苦しい選択肢です。教室への再登校なのか、保健室登校なのか、その他の別室登校なのか。そして次に市区町村がやっている「適応指導教室」に行くか。それとも民間の「フリースクール」に行くか。他にも「ホームスクーリング」という方法もあります。


 これだけ多くの選択肢が目の前にあるなかで、その選択肢の1つでしかないフリースクールに対してアンテナを高くして、そのなかで1校を選ぶ大変さ、というのは大学を選ぶより何倍も難しい行為で、それをバイタリティが高い状態とはいえない不登校者にさせてしまうことに少々の無理がある、と思わずにはいられません。


 そこで私は、「子どもはフリースクールを吟味しない」ということを推奨します。そうはいっても、どこかは選ばなくてはいけませんから、そこは保護者の方がアンテナを高くします。フリースクールはSNS、口コミ、HPなど色々な情報を発信しています。もちろん、チラシやパンフレットも判断材料です。情報を公式LINEやHPのフォームからお問い合わせをして、担当者の印象を確かめつつ、面談に行くスクールを選定します。ここは保護者だけでもいいですし、子どもを連れていくのもいいでしょう。そして、体験、気に入れば入校となります。


 このように「なるべく子どもに選択する負担をかけずに入校」というのがおすすめです。それで実際に通ってみて、そこが合っていて居心地が良ければ続ければいいし、あまり合っていない、居心地が良くないということなら退校でいいと思います。それから次を探せばいいのではないでしょうか。あくまで「行けなかったから辞める」のではなく、「合っていなかったから辞める」のであって、子どもがそこまで気に病む必要もありません。この観点でいくと、入校金などの初期費用が高いフリースクールは辞めづらいということになるので、保護者からすると選びにくいし、今後は選ばれにくくなるかもしれません。


 学校はフリースクールと違い、一度所属すると辞めることが困難です。一方で辞めることが容易である点は、フリースクールの大きなメリットといえます。そのメリットを最大化するためには、学校と同じように時間をかけて吟味を重ねるのではなく、とりあえず所属してみる、という感覚を持ってみることを推奨します。その気軽さがあれば、子どものプレッシャーも軽減され、通いやすく、休みやすい状況が作れると思います。何校も何校も体験に行って、悩みに悩んだ結果入ったフリースクールに行けなくなると、子どもには新たなダメージが生まれますし、そこから次を探そうとはなりにくいと考えられます。

 「子どもの主体性に任せて」という言葉とのバランスに迷うところだとは思いますが、不登校期は、「子どもの主体性や思考を一度休ませる」という選択も視野に入れ、保護者主体でフリースクールを決めてしまうのがよいのではないでしょうか。


3.そもそも体験ではフリースクールのことはほとんど分からない


 前の記事で、「フリースクールは認知の軌道修正をするための学校である」と申しましたが、フリースクールとは、通い続けることで真価を発揮します。多種多様な個性を持った異年齢集団であるフリースクールでは、そこでいかなる人間関係が構築され、スタッフも含めたどの人に大きな影響を受けながら、いかなる思考の転回がおこなわれていくか。つまり、人との関わりによって、入校した生徒のこれからが大きく変わっていきます。体験のときは、もちろん人間関係は構築されていませんから、雰囲気の合う、合わない。スクールでやることが楽しそう、楽しそうじゃない。といった表面的なことを知ることはできますが、そこにいる人たちと自分が、その後、どういった関係性となり、自分にどういう影響をもたらしてくれ、それによって自分はどう変化していくのかは体験の時点ではほぼ何も分からないといえるでしょう。

 
 ですから、こんなことを言うと元も子もないと思われるかもしれませんが、体験によって入るか、入らないかを判断するのも、体験を経ずに入校するのも、本質的なところではほとんど大差がないとまでいえてしまうと思います。とりあえず、1週間、2週間と過ごしてみて、生徒本人の気持ちに、保護者の気持ちにどんな変化が訪れるか。1ヶ月過ごしてみて、生徒本人にどのような成長が感じられるか。そういったことにフォーカスして、フリースクールでの生活を送っていくのが、フリースクールの上手な使い方だと思います。「所属する」ことで、フリースクールの真価は発揮され始めるといえます。


おわりに


 今回は、どうして滝野川高等学院では「体験は1回まで」というルールを設けているのか、というテーマで、3つの観点から述べました。


1.体験のためにスタッフを配置する回数をなるべく減らし、所属生徒が手厚く指導を受けられるという利益を最大にする。


2.不登校者には、なるべく選択したり、悩んだりする機会を少なくして、疲労やプレッシャーなくフリースクールに入ってきてほしい。


3.体験では本質的にはフリースクールの一側面しか知ることができず、人間関係が構築されることによって生じる変化や成長のためには、フリースクールに所属することが必要である。


 以上に述べたことは、2019年のフリースクール設立段階では考えもしなかった視点でした。


 体験に来たけど入校しなかった子どもは、本当はうちのフリースクールにとても合っていて、もし入っていれば人生すら変わるような経験ができたかもしれない。そう思うたびに「体験のときにうちの魅力を全て感じていただかなければ」という気負いがスタッフに生じていくのを感じました。


 そうなると、だんだんと「よそ行きの」、「作られた」、体験のための体験になってしまいます。フリースクールの本来の魅力は、何気ない日常において、子どもがリラックスできるところであり、何気ない子どもたちの会話や遊びのなかで、子どもたちが少しずつ変化していけるところです。


 ですから、「体験の日が面白かった」ということが一番の入校の判断材料となっている、現在のフリースクール選定基準は少しずつ変わっていく必要があると感じています。そのためには、高額な初期費用や、学費の一括払いなどの「縛り」をフリースクール側がなるべく作らないようにすることが何より重要であるといえるのではないでしょうか。なるべく気楽に入校できて、なるべくプレッシャーが少なく、それでいて変化や成長を感じられる。そんな居場所が全国に増えていってくれることを心より願っています。


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滝野川高等学院

住所:東京都北区浮間1丁目1−6 KMP北赤羽駅前ビル3F

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