フリースクール、進化のとき(東京都フリースクール等支援事業が始まっての所感)

query_builder 2025/03/04
フリースクール、進化のとき(東京都フリースクール等支援事業が始まっての所感)

 今年度、フリースクールの世界には大きな変化が起こりました。その変化とは「東京都フリースクール等支援事業」がスタートしたことです。 これは「都が実施する基礎講習を受講し、子供一人ひとりにサポートプランを作成するフリースクール等に対し、必要な人件費を支援」するというもので、このサポートプランの作成には並々ならぬ努力が必要ではあるものの、補助対象経費として、①「サポートプランの作成等を行う職員(常勤1名、非常勤1名の計2名)の人件費の「4分の3」の額の補助金」を受け取ることができます。


 なお、補助限度額としては、「常勤職員は概ね180万円~300万円、非常勤職員は150万円ということです。それ以外にも、②「施設・活動の安全性向上にかかる経費」、③「子供の体験活動にかかる経費」、④「スタッフの資質向上にかかる経費」も補助金として受給することができますので、滝野川高等学院ですと、年間で500万円程度の補助金を受け取ることができることになると思います。


 この制度によって比較的小規模のフリースクールはかなり救われるものと思われます。 ただ、滝野川高等学院のような中規模以上のフリースクールにとっては、サポートプランの作成は困難を極めます。50人の生徒に面談をする、50人の保護者さんとやり取りをする(一度ではなく何度もやり取りがある)、そして50人分のプランを作成し、都に提出するという気の遠くなるような作業が待ち受けているというわけです。そうなってくると、プランの作成に向けて非常勤職員のシフトを増やす、新たな職員を雇用するという必要も出てきました。結果として、大幅な人件費増とスタッフの負担増が起こることとなり、果たしてコストパフォーマンス、タイムパフォーマンスはどうなっているのか、悩みは尽きません。


 さて、この新制度ですが、東京都にあるフリースクールにとっては試金石になっていると思います。まず、補助金の申請が通るかどうかが高いハードルとして存在します。都のホームページによれば、補助金受給施設として採択されたのは、「48校」とのことで、生徒が一人でも通っているフリースクールが「224校」ある中で4分の1程度しか採択されていないということになります。これが2025年度になって何校にまで増えていくのかは分かりませんが厳しい数字だといえます。


 申請を通せるのか、サポートプランは作成できるのか、都への報告義務は果たせるのか、といったふるい落としが行われ、それらを果たせないスクールには補助金がおりず、都がホームページ上で公開している「交付決定対象施設一覧」にも掲載されません。このこともフリースクールにとっては地味に痛手となるはずです。


 リストに掲載されているスクールは「都から認可されている」状態であるとみることもできますし、逆もまた然りでしょう。この48校は「保護者にとって、安心して通わせられるスクール」である可能性が高いとみなすこともできてしまうと思います。もちろんフリースクールの価値はそういったことばかりではありませんが、組織としての強さが求められていることは確実です。


 またサポートプランについて東京都は、「サポートプランとは、フリースクール等での日々の支援が、より一層子供一人ひとりに寄り添ったものとなるよう、支援の方向性等を、子供本人や保護者と相談しながら作成するものです。作成したサポートプランは、支援の状況について、在籍する学校と情報共有するためのツールとしても活用可能です」と述べています。プランの作成が生徒の成長にとって、どの程度の効果があるのか、今の時点では全くの未知数ですが、プランを作る労力をかけられるスクール、生徒・保護者との意思疎通が取れるスクール、そして何より、プランを作成するために生徒を洞察でき、個々に合った教育プランを立てられる教育組織でなければ、プランを作成して都に提出することは難しいといえます。


 そういった「試金石」によって、フリースクールの価値が問われ始めた今、個々のスクールは「進化」していく必要があります。「公的な機関に認められる組織になること」がまずは第一の進化です。もちろん、これは当たり前のことです。大切なのは第二の進化として、公的に認められながらも、「自らの個性を確固たるものにしていく」ことではないでしょうか。認定されることには「平準化のリスク」が伴います。平準化のリスクとは、東京都から補助金を受けることにより生じた様々な義務によって、これまで個々に生徒のことを考えて個性的な方法を考えてきたフリースクールが、都に認められるスクールへと変化していく中で個性や信念を失い、似たようなフリースクールばかりになってしまうということです。


 こう言ってしまっては東京都に対して失礼になってしまうかもしれませんが、私は現段階で、東京都がフリースクールの個性や信念、本当の価値を測るための「ものさし」を持っているとは思えません。もちろん近年の不登校者激増を受けて、その居場所となるフリースクールに対する支援を開始したことは英断であると思っています。ただ、フリースクールの良し悪しを選別できる指標が、現実問題としては、正しく申請できるかどうか、課されたプランの作成を行なえるかどうかといった表面的なものに留まっていることは否定しがたい事実だと思います。


 それではフリースクールが証明すべきは何か。それは「我が国の子どもたちのなかで現在不登校になっている子どもに対して、そのスクールの教育方法がどれだけ有効なのか」、それを示すことです。公教育のなかでは育てられなかった子どもたちをフリースクールが育てて、社会に送り出し続けることができれば、学校に行けなくなったことを問題視する必要がなくなります。そうなれば、学校だけに固執することがなくなり、家庭も余裕をもって教育をしていくことが可能になってくるはずです。そして、「不登校」というワードそのものが必要なくなってくるはずです。


 まだフリースクールは、その段階まで達しておらず、不登校はいまだに社会問題のままです。フリースクールがしっかりしていかなければ、いつまでも不登校は社会問題であり続けることになるでしょう。 今、フリースクールは「進化」すべきときです。居場所として、教育組織として、ビジネスモデルを確立していく。それを目標に、私たちも頑張っていきたいと思います。


滝野川高等学院

代表 豊田毅


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滝野川高等学院

住所:東京都北区浮間1丁目1−6 KMP北赤羽駅前ビル3F

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